解析ソフトの開発 

中性子を物質に照射し、散乱された中性子のエネルギーの変化からその物質の内部形状の熱振動を評価出来ます。このためにはチョッパーを使ってエネルギーの揃った中性子を切り出す手法がよく使われています。MLFの複数のビームラインではチョッパーを使ってエネルギーを揃えた中性子を物質に照射し、散乱された中性子の飛行時間と散乱角から中性子のエネルギーの変化を決めています。

この手法以外に散乱される中性子のエネルギーの変化を測定する主張がいくつか知られており、その一つが中性子スピンエコー法と呼ばれるものです。中性子スピンエコー法ではチョッパーではなく磁性体と非磁性体の多層膜を使ったミラー、定常磁場を発生させるガイドコイル、さらに任意波形の磁場を発生させるフリッパーとを使います。

磁性体と非磁性体の多層膜に中性子を照射すると中性子がスピンに比例した磁気モーメントを持つためスピンの向きに応じて中性子の感じる屈折率が変化し、それに応じて中性子の反射率を大きく変化させることができます。そのため、反射もしくは透過した中性子はスピンの向きが揃ったものすることができます。

また、ガイドコイルが生成する定常磁場の内部を中性子が通過すると中性子がスピンに比例した磁気モーメントを持つためスピンの向きに応じて中性子のエネルギーが変化します。さらに、そのエネルギーに合うように周波数を選び、中性子のフリッパー通過時間に合うように振幅を選んだ振動磁場をフリッパーで中性子に照射することで中性子のスピンの向きを反転させることができます。

中性子スピンエコー法では以下のようにこれらのデバイスを組み合わせて使います。まずに中性子をミラーに照射して反射しする中性子のみを取り出すことで中性子のスピンの向きを揃えます。その後、ガイドコイルの内部を中性子を通過させることによって中性子のスピンの向きに応じたエネルギーの差をつけます。そしてフリッパーを通過ささることで半分の中性子が振動磁場のエネルギーを得るとともにそのスピンを反転させます。その後再びフリッパーで先ほどとは異なるエネルギーを渡すようにした上で再び半分の中性子が振動磁場のエネルギーを得るとともにスピンを反転させます。その後再びミラーに照射することで片方のスピン成分のみを取り出します。こうすることで中性子のエネルギーの異なる状態の重ね合わせ状態ができて飛行時間に応じて中性子強度の変調が測定できるようになります。

中性子スピンエコー法ではこの飛行時間に応じて中性子強度の変調が得られる状態の中性子を照射して中性子のエネルギーの変化を中性子強度の変調のコントラストの変化から評価すします。例えば、薄膜を成膜した基盤にこの手法を適用した場合、中性子検出イベンとから反射中性子のある領域のみを抜き出して飛行時間ヒストグラムを作成し、その中性子強度の変調のコントラスト、位相、平均強度に変換し、成膜してない場合のデータからの変化を取り出すことで薄膜からの中性子のエネルギーの変化の様子を抜き出します。

これに必要なイベントデータの取得からそれに引き続くデータリダクションまでのソフトウェアを実装しました。また、効率的に測定を行うためにミラー、スリット、フリッパー、ガイドコイルなどの制御を含めた自動測定システムを作っています。また、時々実装について質問を受けることがあるのですが話が噛み合わないことがよくあります。そこで、単純なサンプルプロジェクトを利用することで実装の設計思想を説明する資料とサンプルコードを集めた以下のサイトを準備してます。

 git: https://github.com/KaoruTaketani/DAQ-JS