実験試料環境系 |
素粒子であるミュオンは寿命2.2μsで崩壊しますが、この時スピン磁気モーメントの向きに崩壊陽電子の空間分布が偏るという著しい特徴があります。この特徴から、ミュオンを用いると物質中のミクロな磁場を調べることができ、ミュオンスピン回転(μSR)実験と呼ばれます。これは、加速器で生成された素粒子を用いる物性実験ですが、日本で唯一実施できる施設が、大強度陽子加速器施設J-PARCにある物質・生命科学実験施設(MLF)です。 私はこのミュオン実験装置(図1)の一つの装置責任者を務めてユーザー支援(サポート)を行うとともに、実験試料環境を担当しています[1]。実験試料環境(または単に試料環境)とは、実験試料の温度や印加磁場などを制御するための周辺環境のことです。例えば図2にはヘリウム3を用いて冷却を行うクライオスタット(冷却用の真空断熱装置)を示します。これはMLFミュオン施設で1K以下の実験を行える2つめのクライオスタットであり、共同利用実験(外部ユーザーを受け入れて行う実験)のビームタイムのうち約1/4の日程で使用されています。私はこのユーザー支援の大部分を担当するとともに、その他の試料環境についても実験につきもののトラブルに対処し、真空・低温・電気などのビームライン技術を駆使して円滑な共同利用実験の推進に努めています。 一方で私は、ユーザー支援の質を向上させ共同利用実験を真に推進するためには担当者が実験装置を実際に使う必要性を強く感じ、自主研究時間等を活用して自らもユーザーとしてビーム実験を行って自己研鑽に努めています[2,3]。結果として、2022年には博士の学位を取得すると共に、試料準備から実験結果のデータ解析相談に至る広範なユーザー支援に応えられるようになってきました。 その他業務として、パルスレーザー堆積装置の運転・維持、四重極質量分析器による放出ガス測定、化学安全・薬品管理、大学生・高校生の実習受け入れ、茨城大学量子線科学専攻での非常勤講師や、KEK内での各種委員を行っています。技術職員として様々な業務を行ってきましたが、KEK入所面接時にユーザー実験支援を行いたいと言った初心を忘れずに日々努めています。
(担当:中村惇平)
中村惇平氏
図1:ミュオン実験装置が設置されたMLFミュオンS1エリア
図2:ヘリウム3クライオスタット
参考文献・リンク
[1] “Sample Environment for Low Temperature µSR Experiments at MLF, J-PARC”. Jumpei G. Nakamura, Akihiro Koda, Hua Li, Masatoshi Hiraishi, Hirotaka Okabe, Shoichiro Nishimura and Ryosuke Kadono, JPS Conf. Proc. 41, 011007 (2024); https://doi.org/10.7566/JPSCP.41.011007
[2] https://www2.kek.jp/imss/news/2025/topics/0214JPSJ-Wakate-Awd/
[3] https://www2.kek.jp/imss/news/2023/topics/230426Meson-award/#gakusei