ミュオン制御系 |
❀❀❀ ミュオン科学実験施設の安全機器の制御系 ❀❀❀
MLFのミュオン科学実験施設には、MLFに照射された陽子ビームからミュオン二次粒子を生成する黒鉛標的や、発生した二次粒子ビームを各実験エリアに輸送するビームラインなどがあります。現在ミュオン科学実験施設では、4つのミュオン二次ビームラインと9つのミュオン実験エリアが稼働しています。
(次図はMLFミュオン科学研究施設の実験エリア配置)
現在MLFのミュオン標的には、陽子ビームが照射される場所を標的上の各所に分散させるための回転機構を備えた「回転標的」が導入されています。ミュオン標的の制御系は、標的状態の監視を行い、異常発生を検出した際には、速やかにMPS(Machine Protection System;装置防護システム)インタロックを発報し、ミュオン標的への陽子ビームの照射を停止します。
MPSの監視対象となるのは、ミュオン標的の各部の温度の他、標的の標的回転モーターの回転速度や回転トルクなどが含まれ、これらの機器状態を監視することにより回転機構の健全性を保障しています。万一回転機構に問題が発生し回転が停止してしまった場合、陽子ビームの照射部分がミュオン標的上の一か所に集中することになり、ミュオン標的が損傷します。このような事態を防止するため、標的状態を監視し異常発生時にMPSを発報します。
また、ミュオン標的は回転機構だけではなく、陽子ビーム照射位置にミュオン標的あるいは、陽子ビームの形状を確認するためのプロファイルモニタを移動させる、機器切り替え用の「上下移動」の機構も備えており、標的制御系はこの上下移動制御も行います。
標的上下回転制御状態や標的状態などは、MLF実験ホール内部に設置されている、ミュオン標的制御盤に罪蔵されているPLCから、専用ネットワークにて機器状況が伝送され、MLF制御室にて、ミュオン標的状態の監視、およびミュオン標的の上下回転動作制御が行われます。
(次図はMLF制御室のミュオン標的制御・監視画面)
ミュオン科学実験施設の各実験エリアには、実験者の放射線からの安全防護のため、PPS(Personnel Protection System;人的安全保護システム)インタロックが導入されています。
ある実験エリアにおいてミュオンビーム照射を行っている間は、その実験エリアの入口扉は電気錠により施錠されており、実験エリアへの入域は不可能になっています。実験試料の交換などのため実験エリアに入域する必要が生じた際は、二次ビームライン上のミュオンブロッカーを閉めミュオンビームを止めることで、エリア入口扉の解錠とエリア入域が可能になります。また入口扉を解錠し扉を開けた時点で、ビームライン途上のミュオンビームを偏向させる、偏向電磁石(安全電磁石)の電源を自動的にオフにすることで、二重の安全性を保障しています。
実験エリアから退出する際は、実験者全員のエリアからの退域を確認後、入口扉を施錠することで、ミュオンブロッカーを開けることができるようになり、安全電磁石電源を再投入後、ビーム照射を再開できます。
また万一、実験者の実験エリア内への閉じ込めなどの緊急事態が発生した場合、エリア内部に取り残されてしまった実験者は、エリア内部のパニックボタンを押すことで、J-PARC加速器全体の運転を停止させることができます。
ミュオン科学実験施設では、これら複合的な安全機構を採用することで、実験者の放射線防護を保障しています。
(次図は実験エリアPPSの構成)
ミュオン実験エリアのPPS構成
ミュオン二次ビームラインには、ミュオンビームを輸送するために多数の電磁石と、その電源が多数設置されています。またビームライン内部はミュオンビームの減衰を低減するため高真空状態に維持されており、これらの真空度を監視する真空計が複数設置されています。これらの機器状態および先記のミュオン標的の機器状態はMLF制御室で監視され、また変化のログが記録されます。
MLF制御室に各機器の状態を伝送するために、MLFにはPLC専用のネットワークが導入されています。ミュオン二次ビームラインの各機器は、各々を統括するPLCに状態信号が取り込まれています。それらの機器の状態信号はミュオン標的の状態信号と共に、MLFのPLC用ネットワークを介して、MLF制御室に伝送されます。
(次図はPLC類のネットワーク構成)
MLF制御系ネットワーク
近年中に、新たに実験エリアの増設が予定されています。また、既存のMLF実験ホールの外部に実験ホールを増設し、特別なミュオン実験を行うことが計画されており、この増設実験ホールや、その中に設置される実験エリアの、制御系の整備が必要になります。
(担当:小林庸男)