ミュオン紹介

<ミュオンって何?>

 ミュオンとは、地表に降り注ぐ宇宙線の中で最も多く、毎秒10個以上が体を通り抜けている素粒子です。ミュオンは原子核をバラバラにしてできたパイ中間子が自然崩壊して生成し、電子と同じレプトンと呼ばれる素粒子グループの一種で、質量は106 MeV/c2 (メガ電子ボルト) であり、発見当初はその質量の酷似から湯川秀樹博士が予言した中間子と思われた事でも有名です。ミュオンには正/負電荷のものがあり、正ミュオン/負ミュオンと呼ばれています。自然界のミュオンは火山透視、原子炉の透視などで活躍していますが、数が少ないため、大きな構造物であれば解析に数か月以上を要します。しかし、加速器を用いることにより高密度のミュオンが生成でき、様々な物性実験を効率的に行うことができます。
 

<ミュオン工場の歴史>

 ミュオン科学研究系は、世界に先駆けてパルス状ミュオンビームの発生に成功(1980年)以来、国内唯一の中間子工場としてスタートした実験施設であり、現在、大強度陽子加速器施設(J-PARC)に活躍の場を移しています。 「性能と強度で世界一のミュオンビームを出す!」 目標を掲げた研究開発グループが、ミュオン施設「MUSE」建設プロジェクトをスタートさせたのが2003年。2009年にはJ-PARCに初めてのミュオンをもたらし、2012年遂に世界最高強度を手にしました。10人に満たない少人数の研究開発グループが実現させた安定かつ機能的な世界最高性能のビームラインは、新たなフロンティアへの幕開け、新たなサイエンスを切り拓くものと期待されています。
 

<ミュオンの用途>

 磁性・超伝導などの物性物理学、電子材料の特性解析、さらには考古学的史料の非破壊分析、物質内部のイメージング等々。例えば、負のミュオン(ミューマイナス)はX線より透過力が強く、物質の奥まで測れる(測りたいところまで思いのままに測れる)ことを利用して小判の解析にも用いられます。江戸時代末期の天保小判は財政難の折、銀を半分混ぜて作られていましたが、表面から深さ3~5μmまで金の純度が高い(すなわち、金の小判に見せかけるために表面だけ90%に色揚げしていた)ことがミューマイナスによって実証されました。
 

<ミュオン工場の体制>

 世界でも群を抜いた高強度の良質なミュオンビーム、J-PARCにそれをもたらした技術を支えるのが、ミュオン科学研究系の技術職員です。プロジェクトマネージメントから熱解析、構造解析、磁場解析、機械設計などの要素開発や製作した装置の運転、維持管理など責任ある業務を担っています。これらミュオン工場の内部を是非ご覧ください。