放射光ビームラインの設計・建設・維持管理

放射光利用実験では、品質の良い光を試料に導くことが実験成果を左右する大きな要素です。 そして、放射光を試料まで導くビームラインに於いては、光学系や真空の技術に関する様々なノウハウがあります。 これらに関する技術開発は、しっかりとした知識と豊富なノウハウの先にあるもので、 まさに匠の技が求められる分野です。 私たちは更に技を磨き上げ、新人は一日も早く匠に近づくための努力を続けています。

放射光科学研究施設においては、放射光利用実験のニーズへの対応や、ビームラインの性能向上のため新たにビームラインを建設する、「ビームライン再構築」が時折行われます。 このビームライン再構築の作業は技術職員が中心となり、放射光科学研究施設職員が一丸となって進められます。 ビームライン再構築に際してはビームライン設計作業をはじめとし、工期調整の雑務など様々な事柄が必要となりますが、 ビームラインにより放射光が導き出されるのを確認した時の達成感はここでしか経験できない素晴らしいものです。

ビームラインに於いて品質の良い光を提供し続けるためには光学系などの性能を維持する事はとても重要です。 性能維持の一つに、光学素子の汚れで光の強度を落とさないようにするという課題があります。 放射光科学第二研究系の豊島は、まさに「光の匠」と言える技を駆使し、この問題に取り組みました。

この問題の予防策としては、汚れの素となる炭化水素の分子を装置内に残さないことが重要となります。 一つには装置内の真空度を 10-8Pa程度まで向上させる必要がありました。 この真空度の向上には、真空に対する高度な技術が必要とされます。 多くの努力により真空度の向上は改善され、汚れも低減されましたが、しかしこれはあくまでも予防策であり、 完全にこの問題を防ぐ事はできませんでした。

その後、この問題を克服すべく、彼を中心とした放射光科学研究系の職員が 「超高真空を破ることなく光学素子の炭素汚れを除去する方法」に取り組んだ結果、見事目標成功に至りました。 この詳細については、高エネルギー加速器研究機構のニュースルームハイライト「光の匠:光で汚れを落とす」 で紹介されています。